東京地方裁判所 平成3年(ワ)7321号 判決 1993年4月14日
東京都台東区台東三丁目三七番八号
原告
コロナ産業株式会社
右代表者代表取締役
髙﨑博
右訴訟代理人弁護士
川田敏郎
同
増岡由弘
右輔佐人弁理士
志賀正武
同
鈴木俊之
長野県東筑摩郡朝日村大字古見犬ヶ原八七五番地
被告
株式会社ドガ
右代表者代表取締役
今野哲男
右訴訟代理人弁護士
鳥飼公雄
右輔佐人弁理士
尾股行雄
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
被告は、別紙物件目録記載の端子金具を製造し、販売してはならない。
第二 事案の概要
一 本件は、原告において、その有する本判決添付の意匠公報(本件公報)記載の意匠権(本件意匠権。登録第五二二九四九号、登録日昭和五四年一〇月三〇日。右意匠権にかかる意匠を「本件意匠」という。)に基づいて、別紙物件目録記載の端子金具の意匠が本件意匠と類似するから、被告の右端子金具の製造販売行為は本件意匠権を侵害するものであるとして、被告に対し、右端子金具の製造販売の差止めを求めた事案である。
二 争いのない事実
1 原告は、本件意匠権を有している。
2 被告は、甲第七号証の二(本件カタログ)に掲載されている品番X-六六二のクリスマスツリー用装飾電球セット(本件電球セット)を輸入して販売している。
3 被告は、本件電球セットを、本件カタログに掲載されている電球セットの形態(検乙一参照)で輸入し、またこの形態でこれを販売している。
4 本件電球セットには端子金具が使用されているが、右端子金具は、そのリード線かしめ板部と芯線かしめ板部において、リード線ないしは芯線をかしめ止めされ、爪部が電球ソケット部に食い込んだ状態で使用されている。
また、右端子金具を展開すると、別紙物件目録記載の端子金具(以下「本件端子金具」という。)となる。
三 争点
本件においては、以下の点が主要な争点である。
1 被告は本件端子金具を製造販売しているといえるか否か。
(一) 原告
(1) 本件意匠は、特許庁において、正当な手続を経由し、意匠として完成したものとして登録査定されたものであり、物品性があることを前提に認められていることは明らかである。
(2) 意匠法上の物品とは、それが単独に取引の対象となりうる有体物で固定的動産であり、物の一部であっても単独の取引の対象とされうるものは物品に当たるというべきであり、意匠の類否の判断においても、右のような単独で取引の目的にされうる物品を相互に対比してその類否を判断すべきであり、単独で取引の目的にされうる物品のうち、単独で取引の目的にされない部分を取り出して、これを対比してその類否を判断すべきではない。
本件においては、本件意匠にかかる端子金具も本件端子金具もともに単独で取引の目的とされうる物品であるから、これを相互に対比することは可能である。
(二) 被告
(1) 本件端子金具は、本件電球セットの一構成部品として用いられるものであるが、この種の端子金具は、国内において、それ自体として独立して取り引きされたのは遅くとも昭和六〇年ころまでであり、それ以降は台湾等のアセアン諸国で製作され、クリスマスツリー用装飾電球セットの完成品として組み立てられたものが輸入され、販売されているのであって、この種の端子金具は、現在、日本国内で、独立して取引の対象となっていないから、意匠法における物品ということができない。
(2) また、被告の取り扱っているクリスマスツリー用装飾電球セットは台湾の業者から完成品を輸入したものであって、被告はこれを販売しているのであり、本件端子金具それ自体を日本国内で製造販売したことはない。
原告は、単独で取引の目的にされうる物品のうち、単独で取引の目的にされない部分を取り出して、これを対比してその類否を判断すべきではないと主張しながら、本件においては、単独では取引の対象とされない端子金具を取り出し、これを本件意匠と対比しているのであり、その主張は矛盾しているといわなければならない。
(3) また、原告は、実際に取引の対象とされうる物品であれば、実際に取引の対象となっているか否かは問わないと主張するかのようであるが、実際の取引の実情に照らして、端子金具が単独で取引の対象とされないのであれば、そのような物品は意匠法上の物品に該当しないものというべきである(名古屋地裁昭和五九年三月二六日判決無体裁集一六・一・一九九参照。)。
2 本件端子金具は本訴差止請求の対象物として十分特定されているか。
(一) 原告
(1) 本件端子金具がそれ自体として取引の対象となりうる物品であることは前記のとおりであるから、本訴差止請求の対象物としての特定になんら欠けるところはない。
(2) 被告主張の端子金具連は、製造の都合上多数の端子金具を帯状に連続させたにすぎず、これを端子金具に切断して使用しているのであるから端子金具単品と本件意匠との類否を判断すべきである。
(二) 被告
(1) 意匠の類否判断は、あくまで視覚による判断であり、無理矢理分解したりして観察すべきものではない。本件電球セット中の本件端子金具を外部から見ることはできないのであり、端子金具の意匠について確認することができないのであるから、そのようなものについて誤認混同のおそれを論ずることは全く無意味である。この点を敷衍して述べると以下のとおりである。
すなわち、本件電球セット中に組み込まれた本件端子金具は、リード線と電球ソケット部とを物理的・電気的に接続するため、筒状のソケット体内に装着されていて、外部からはまったく見えないものである。また、通常の使用法ではないものの、電球をソケットから外してみると、本件端子金具の上端面がわずかに見てとれるだけであり、端子金具を外部に取り出そうとしてみても、その端子金具の接触板部に形成された爪がソケット体に食い込んでいるため、容易には取り出せず、無理に取り出したとしても、端子金具のリード線かしめ板部ないしは芯線かしめ板部がかしめ止めされているので、端子金具がリード線に結合された状態で取り出されるため、別紙物件目録記載の正面図に示されるようなかしめ板部の形状及び端子金具全体の造形を認識することはできない。
このように、原告は、ソケット体に食い込んでいる端子金具を無理やり取り出したのち、かしめ板部をこじ開けてリード線から分離し、更に前記各かしめ板部を展開した本件端子金具を取り上げて、これが本件意匠権の侵害物件であるとして特定したうえ、本件意匠と対比させているが、このような恣意的変形加工が加えられたものを侵害物件として特定することは許されないものといわなければならない。いったん電球セットとして完成されたのちは、通常の使用法では端子金具を取り出すことなど、まったく有り得ないことであり、原告による本件端子金具の特定は、通常の使用法から著しく逸脱しているものである。このような特定の方法が許されるとするならば、別紙物件目録記載の「使用状態を示す参考図」に示された意匠までが権利範囲に取り込まれることになり、不合理であるばかりか、本件電球セットの販売行為を本件端子金具の販売行為と同一視することとなり極めて不当である。
(2) また、台湾における電球セットの組立作業においても、端子金具連が使用され、本件意匠のような端子金具は使用されていないのである。右端子金具連の意匠と作業工程は次のとおりである。
<1> 基本的形態
両側に対称な爪を突出形成した接触板部と両側がU字状に起立した芯線かしめ板部と、同じく両側がU字状に起立したリード線かしめ板部とが、それぞれくびれた連接部より一連に繋がって端子金具構成単位を形成し、一つの端子金具構成単位のコード線かしめ部は、くびれた接続部を介して次の端子金具構成単位の接触板部の頭部に繋がり、こうして多数の端子金具構成単位が縦一列に帯状に連続する基本的形態を有する。
<2> 各部の具体的形態
縦横比が約一対〇・八の縦長長方形状をなす上段の接触板部は、その上部両側が斜めに削がれて傾斜している。両側の爪は、接触板部の下端から発した傾斜辺と接触板部のほぼ中央から発した水平上辺とで直角三角形状をなす。
中段の芯線かしめ板部は縦横比が約一対一・八の横長長方形状をなす。
下段のリード線かしめ板部は、横幅が芯線かしめ板部のそれよりもやや長く、縦幅は芯線かしめ板部のそれの略半分で、その上辺は水平であり、下辺は先端側がやや細くなるように傾斜している。
<3> 作業の手順
右の端子金具連は巻物として供給され、予め芯線が露出されたリード線が、端子金具連の最先端部の前記U字状に起立したリード線かしめ板部と芯線かしめ板部の上に載せられたのち、右各かしめ板部においてリード線と芯線のそれぞれについてかしめが行われるのと殆ど同時に、端子金具連の一単位が切断されるという作業が行われ、右作業工程中、本件意匠のような端子金具単体となる状態は生じないのである。
3 本件意匠と本件端子金具の意匠とは類似するか否か。
(一) 原告
(1) 本件意匠の範囲
本件意匠に係る端子金具の構成は、以下のとおりである。
<1> 全体を一体に形成した平板状のもので、上段の接触板と、中段の芯線かしめ板と、下段のコード部かしめ板とがそれぞれほぼ等間隔に連接板を介して配設され、全体形状は縦長の大略長方形状であって、その横幅と高さの比は約一対一・七五に設定され、
<2> 接触板は、横幅と高さの比を約一対〇・六とした横長の略長方形であって、やや湾曲させた前面には、水平方向に凸部が形成され、上辺のほぼ中央には横幅の約三分の一の幅を有する突条辺が形成され、
<3> 接触板の両側部やや下側には、上辺を水平にする直角三角形状の突片が設けられ、
<4> 芯線かしめ板は、接触板とほぼ同じ大きさであって、横幅と高さの比を約一対〇・六とした横長の長方形状であり、
<5> コード部かしめ板は、芯線かしめ板の横幅よりもやや幅広く設定され、かつ高さを芯線かしめ板の高さの略二分の一としたもので、その上辺は下方向にわずかに傾斜するテーパ部に形成され、
<6> 接触板と芯線かしめ板とコード部かしめ板とは、接触板の略三分の一の横幅を有する連接板によって、等間隔に連設されてなるものである。
(2) 本件端子金具の意匠の範囲
本件端子金具の意匠の構成は以下のとおりである。
<1> 金属板を打ち抜いて全体を一体に形成した平板状のもので、上段の接触板と、中段の芯線かしめ板と、下段のコード部かしめ板とがそれぞれほぼ等間隔に連接板を介して配設され、全体形状は縦長の大略長方形状であって、かつ全体の横幅と高さの比は約一対二・三に設定した縦長の略長方形に形成され、
<2> 接触板は、約一対一・二二としたわずかに縦長の略長方形状であり、上辺のほぼ中央には横幅の約二分の一の幅を有する突条辺が形成され、
<3> 接触板の両側部やや下側には、上辺を水平にする直角三角形状の突片が設けられ、
<4> 芯線かしめ板は、横幅と高さの比を約一対〇・五六とした横長の長方形状であり、
<5> コード部かしめ板は、芯線かしめ板の横幅よりもやや幅広く設定され、かつ高さを芯線かしめ板の高さの略二分の一に形成されるとともに、下辺のほぼ中央には横幅の約二分の一の長さを有するわずかな高さの突部が形成され、
<6> 接触板と芯線かしめ板とコード部かしめ板とは、接触板の横幅の略五分の二の横幅を有する連接板によって、ほぼ等間隔に連設されている。
(3) 本件意匠と本件端子金具の意匠との対比
本件意匠に係る物品も、本件端子金具の意匠にかかるそれも、ともにクリスマスツリー装飾用の電球に取りつけている端子金具であり、これをコードの先端部にかしめて通電状態で接続して使用するための物品であり、両者が同一用途に供される物品であることは明らかであることのほか、本件意匠と本件端子金具の意匠の形態とを対比すると、両意匠は、以下のとおり類似するものである。
<1> (1)<1>と(2)<1>との比較
両意匠は、いずれも平板状であって、接触板と芯線かしめ板とコード部かしめ板とを連接板を介して一体に構成され、端子金具全体の横幅と高さとの比は、いずれも約一対一・七五ないし一対二・二程度であり、両意匠ともに縦長の略長方形状であり、かつ三枚の板体が連接板により等間隔につながっている形状も同一である。
<2> (1)<2>、<3>と(2)<2>、<3>との比較
両意匠の接触板は、いずれもその両側に三角形状突片をもった直方形状であるという点で共通である。
なお、接触板の形状が縦長か横長かはあまり意味はなく、また、本件端子金具の意匠には、本件意匠のような接触板前面の凸部が形成されておらず、また湾曲していないなどの点で若干の違いがあるものの、右相違は、両者を全体観察した場合、殆ど捨象しうる程度のものであるというべきである。これらの相違は、両意匠を区別せしめるほどの差別性を有しておらず、需要者をして、全体形状から受ける印象により、混同を生ぜしめる蓋然性が高いというほかはない。
<3> (1)<4>ないし<6>と(2)<4>ないし<6>との比較
両意匠において、芯線かしめ板とコード部かしめ板はいずれも横長の長方形状であり、また接触板と芯線かしめ板とコード部かしめ板とは連接板によってほぼ等間隔に連設されており、各板の配列や形状がいずれも極めて近似している。なお、本件端子金具の意匠においては、コード部かしめ板の下辺がゆるやかなテーパ状に形成され、かつ下辺中央部に突出部が形成されている点、上辺はテーパ部でなく水平である点で本件意匠と異なるが、これらは全体形状からみると極めて小さな相違であって、両意匠が異なるという印象を与える程のものではない。
<4> 以上のように、両意匠は、第一に、これを全体観察した場合、いずれも縦長の細長い略長方形状に形成され、かつ連接板により三段の板部から形成されているという共通の印象を与えるものであり、第二に、これを間接対比観察した場合、接触板の両端部に設けた直角三角形状の突片の特異な形状、接触板、芯線かしめ板及びコード部かしめ板の形状等から、各板の概略形状が共通する特徴として看取され、共通の印象を与えるし、第三に、本件意匠には、本判決添付の類似一の意匠公報記載の類似意匠があり、右意匠公報によれば、右類似意匠と本件端子金具の意匠とは、要部を比較するまでもなく一見して近似していることが明らかであり、全体的に極めて酷似しているのであるから、本件意匠の類似の範囲内にあることが明白である。
なお、本件意匠と本件端子金具の意匠には、後記被告主張(二)(6)<1>(a)ないし(c)のような相違があるが、右は全体形状から観察すると極めて小さな相違にすぎず、両意匠が異なる程の印象を与える程のものではない。
要するに、本件意匠と本件端子金具の意匠とは、全体形状の比較からも、各板形状等の比較からも極めて近似し、共通する印象を看者に与えるものであるから、後者は前者に類似するものといわなければならない。
(二) 被告
(1) 公知意匠
本件意匠出願前に、次のような公知意匠がある。
<1> 実公昭四六年第二三五九〇号公報
装飾用豆電球のソケットに関する右実用新案公報には、全体を一体に形成した平板状のもので、接触板と、挟着部(芯線かしめ板)と、挟着部(コード部かしめ板)とが適宜間隔を介して連設され、全体形状は縦長の直方形状をなし、その接触板の背面に突起と、下方隅部に内向爪を表した端子金具が示されている。
<2> 実公昭四六年第二四〇八○号公報
装飾用豆電球に関する右実用新案公報には、「10は下端に電線11を包着する如くした巻着係止片部で、該端子片10の側部にソケット側にくい込む係止爪12ダッシュを突設してなる。」との記載と共に、その第七図及び第八図には、接触板、芯線かしめ板、コード部かしめ板の三段構成、並びに接触板の片側縁の上部にのみ三角形状の爪12を表した端子金具の態様が表されている。
<3> 実公昭四六年第三〇三九〇号公報
装飾電球用ソケットに関する右実用新案公報の第三図及び第四図には、接触板、裸電線6を挟着する挟着片4b(芯線かしめ板)、被覆コード5の先端部を挟着する挟着片4c(コード部かしめ板)の三段構成、並びに断面弧状の金属性接触板の背部に上向きの三角突起爪四aを表した端子金具の態様が表されている。
<4> 実公昭四九年第二〇三九七号公報
装飾豆電球等端子に関する右実用新案公報の第四図には、接触面5ダッシュ部に横凸条6、6ダッシュを一定間隔を隔て突出形成し、かつ両側縁に電線係止部側に傾斜せる逆勾配爪7を突出している態様の端子板5の意匠が示されている。
<5> 実開昭四九年第九七三八五号公報
電気接続子に関する右公開実用新案公報の第九図及び第一〇図には電気接続子の展開図が示されており、これによると、全体を一体に形成した平板状のもので、上段の接触部A(接触板)と、中段の導体に対する圧着挟持部2(芯線かしめ板)と、下段の電線の被覆に対する圧着挟持部1(コード部かしめ板)とがそれぞれほぼ等間隔に連接板を介して配設され、全体形状は縦長の大略長方形状として表されている。
(2) 公知意匠と本件意匠の対比
本件意匠の基本的構成態様である「金属板を打ち抜いて全体を一体に形成した平板状のもので、上段の接触板と、中段の芯線かしめ板と、下段のコード部かしめ板とがそれぞれほぼ等間隔に連接板を介して配設され、全体形状は縦長の大略長方形状である」点、及び「接触板の両側部に三角形状の爪突片が設けられ」る点は、前記公知意匠と共通する事項である。
(3) 類似意匠
本件意匠の類似第一号の類似意匠の構成は、次のとおりである。
<1> 基本的構成
金属板を打ち抜いて全体を一体に形成した平板状のもので、上段の接触板と、中段の芯線かしめ板と、下段のコード部かしめ板とがそれぞれほぼ等間隔に連接板を介して配設され、全体形状は縦長の大略長方形状である。
<2> 各部の具体的構成態様
(a) 端子金具の横幅と高さの比は約一対一・三である。
(b) 接触板は、横幅と高さの比を約一対一・四とした横長の略長方形である。
(c) 接触板の両側部のほぼ中央には、上辺を水平とし、斜辺の下端は接触板の下角部のはるか手前で終わっている直角三角形状の爪が表されている。
(d) 芯線かしめ板は、高さを接触板の高さの略二分の一とし、横幅と高さの比を約一対〇・六とした横長の略長方形である。
(e) コード部かしめ板は、芯線かしめ板の横幅よりもやや幅広く設定され、かつ高さを芯線かしめ板の高さの略二分の一としたもので、その上辺は下方向に、下辺は上方向に、わずかに傾斜するテーパ部に形成され、下辺の中央には連接板とほぼ等間隔の突条片が表されている。
(f) 連接板は接触板の略二分の一の横幅を有する。
(4) 右類似意匠と本件意匠との対比
本件意匠と右類似意匠とは、次の点で共通であり、右共通点は、本件意匠と類似するとされた根拠となるものであるから、本件意匠の要部を定める際、重要な意味を有するものである。
<1> 基本的構成の点
<2> 接触板の上片と両側辺はほぼ直角をなし、爪の下端は接触板の下角部の手前で終わっている点
<3> 芯線かしめ板は、横長の長方形状である点
<4> コード部かしめ板部の上辺は、先端に向かって下方向にわずかに傾斜する点
(5) 本件意匠の要部
右(1)ないし(4)を参酌すると、本件意匠の要部は次のように定めることができる。
「上段の接触板と、中段の芯線かしめ板と、下段のリード線かしめ板とがほぼ等間隔に連接板を介して配設された端子金具の形態であって、その接触板は上角部を直角とした直方形状であり、接触板の両側部には、その下端を接触板の下角部の手前で終わる爪が突出し、コード部(リード線)かしめ板は、その上辺が先端に向かってわずかに傾斜している。」
(6) 本件意匠の要部と本件端子金具の意匠との対比
<1> 本件意匠の要部と本件端子金具の意匠とを対比すると、次のような差異がある。
(a) 前者では接触板の上角部はほぼ直角であるが、後者では斜めに削除されている。
(b) 前者では爪の下端は接触板の下角部の手前で終わっているが、後者では接触板の下角部に合致している。
(c) 前者ではコード部(リード線)かしめ板の上辺は先端に向かってわずかに傾斜しているが、後者では水平である。
<2> 右(b)の差異点により、本件端子金具の意匠は頑丈な印象を与えるのに対して、本件意匠ではそのような頑丈さが感得されない。
右(a)及び(c)の差異点により、本件端子金具の意匠は角張った印象が緩和されているのに対して、本件意匠では看者に角張った印象を強く与える。
(7) 本件意匠の要部と本件端子金具の意匠とを比較すると、以上のとおりの差異があるのであるから、両意匠は非類似であるというべきであり、原告は、前述の公知意匠や類似意匠を参考とせず、または本件意匠の要部を把握せずに、本件意匠と本件端子金具の意匠とが類似する旨主張しているものである。
第三 争点に対する当裁判所の判断
一 原告は、被告に対し、本件端子金具の製造販売の差止めを求めているところ、本件全証拠によるも、被告が本件端子金具を業として製造し販売したことを認めることはできないから、その余について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないことに帰する。
すなわち、前記争いのない事実に加えて、証拠(甲七の一、二、検甲一、検乙一)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 被告は、昭和六〇年以降、国内において本件端子金具を単体で販売したことがないこと、
(二) 被告は、本件電球セットを、甲第七号証の二の本件カタログに掲載されているような形態あるいは検乙第一号証のような形態で、台湾から輸入したうえ、これを販売していること、
(三) 本件端子金具は、本件電球セット中の電球ソケット部に組み込まれ、リード線と電球ソケット部とを物理的・電気的に接続するため、筒状のソケット体内の奥部に装着固定され、外部からはその全体の造形をまったく看取することができないこと、
(四) 本件電球セットの電球は、これを交換する等の特別な場合を除き、ソケットから取り外すことはないこと、
(五) 右電球をソケットから取り外してみると、本件端子金具の上端面がわずかに見てとれるだけであり、端子金具を外部に取り出そうとしてみても、その端子金具の接触板部に形成された爪がソケット体に食い込んでいるため、容易に分離することができないこと、
(六) 本件端子金具をソケットから敢えて取り出してみると、本件端子金具は、リード線かしめ板部ないしは芯線かしめ板部でリード線ないしは芯線がかしめ止めされ、リード線に結合された状態で取り出されること、
右各事実によると、本件端子金具は外部からは全く看取することができず、また容易に分離できない等の状態であって、本件電球セットの一構成部分であり、独立性は全くないというべきものであるから、被告において本件電球セットを販売しているとしても、これをもって本件端子金具を販売しているということはできない。
したがって、被告が本件端子金具を販売していることを前提とする原告の本訴請求は、既にこの点において、理由がない。
二 ところで、意匠法にいう意匠とは、看者に視覚を通じて美観を生ぜしめる物品の形状等の形態の外観であるというべきであるから、取引において全く看取することのできない物品の一構成部分の形態を意匠であるとしてその類否を論ずることに意味があるのかは疑問であるが、原告において本件端子金具の形態が本件意匠に類似する旨主張するので、なお、本件意匠と本件端子金具の意匠の類否についても、検討しておくこととする。
前記事実及び本件端子金具を表したものであることについて当事者間に争いがない別紙物件目録によれば、被告が販売する際の本件端子金具の形態は、本件電球セットにおいて現実に使用されている形態、すなわち別紙物件目録記載の「使用状態を示す参考図」に記載された形態であるというべきである。
右の形態における本件端子金具の意匠と本件意匠とを対比すると、前者においては、リード線かしめ板部ないし芯線かしめ板部がリード線ないし芯線をかしめ止めするため折り曲げられており、別紙物件目録中の正面図に示されるようなかしめ板の形状及び端子金具全体の造形を有していない形態であるのに対し、後者においては、金属板を打ち抜いて全体を一体に形成した平板状のものであって、中段の芯線かしめ板は横長の長方形状であり、コード部かしめ板は、芯線かしめ板の横幅よりもやや幅広く設定され、かつ高さを芯線かしめ板の高さの略二分の一としたもので、その上辺は下方向にわずかに傾斜するテーパ部に形成されており、両者はその基本的構成においてまったく相違しているものというべきである。
よって、本件端子金具の意匠が本件意匠と類似するとの原告の主張も、理由がないというべきである。
三 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は理由がない。
(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 足立謙三 裁判官 前川高範)
物件目録
別紙図面記載の端子金具
<省略>
日本国特許庁
昭和55.2.2発行 意匠公報(S) 43-56
522949 出願 昭 52.4.11 意願 昭52-13309 登録 昭 54.10.30
創作者 高崎博 東京都台東区台東3丁目37番8号
意匠権者 コロナ産業株式会社 東京都台東区台東3丁目37番8号
代理人 弁理士 中山正義
意匠に係る物品 端子金具
説明 左側面図は右側面図と対称にあらわれる
<省略>
日本国特許庁
昭和63年(1988)5月23日発行 意匠公報(S)
H1-322類似
522949の類似1 意願 昭57-11949 審判 昭59-18852
出願 昭57(1982)3月23日
登録 昭63(1988)1月28日
創作者 高崎博 東京都台東区台東3丁目37番8号
意匠権者 コロナ産業株式会社 東京都台東区台東3丁目37番8号
代理人 弁理士 中山正義
審判の合議体 審判長 斉藤暸二 審判官 仏性修 審判官 前川幸彦
意匠に係る物品 端子金具
説明 背面図は正面図と、左側面図は右側面図と同一にあらわれる.
<省略>
意匠公報
<省略>
意匠公報
<省略>